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一枚絵で書いてみm@sterにまた参加しました。
基本的に救われますん。




「桜の雨、消えない罪」



“――テレビ局の番組プロデューサー、佐々木圭吾さんが行方不明になりました。
 佐々木さんは勤務中、テレビ局から忽然と姿を消しました。
 警察は何か事件に巻き込まれたと見て、捜査を進めています”

 秋月律子はそこまで聞いて、ラジオのスイッチを切った。
 無機質なアナウンサーの声が消える。夜の公園は耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。
 ざぁ、と風が吹く。そこここに生い茂る桜並木が揺れ、花びらが舞う。桜色の雨が辺りに降り注ぐ。
「……いつ見つかるかしら。律子」
 如月千早が髪の毛をかきあげながら、そう問う。
「さぁね。ただ、日本の警察は映画みたいに無能じゃないだろうし、時間の問題じゃない?」
 律子は手に持っている紙コップを揺らした。ちゃぽん、と中に入った液体が揺れる。中に入っているのは何の変哲もない水だが、せめて一時だけでも花見気分を味わおうと、近くで買ってきたのだ。
 千早もつられて紙コップを見た。俯きながら、ぽつりと言う。
「――律子は、正しいことをしたと、思う?」
 自信のない、不安に揺らいだ声だった。
「まさか」
 即答だった。律子はただじっと、前方を見て言葉を紡ぐ。
 そこには、木に立てかけられたスコップがあった。スコップの先端には、僅かに血がついている。その木の辺りは今し方掘り返されたように、土が小さく膨らんでいる。
「私たちが選んだ答えは、下の下で、最低で、道理に外れた行為よ。地獄に堕ちても文句は言えないわ」
「…………えぇ」
 厳しい律子の言葉に、千早は更に顔を俯かせる。その声は消え入りそうだった。
「でもね、」
 ふっ、と律子は小さく微笑みを浮かべた。
「千早が、あいつを殴ってくれなかったら――私はきっと、……きっと、女として――」
 律子は千早へと手を伸ばす。涙がこぼれそうな目元を撫でる。
「ありがとう」
「律子……」
 千早の目から滴が零れた。千早はコップを地面において、律子の胸元にすがった。
 律子は腕を開いて彼女を受け入れる。髪の毛を撫でて、震える肩を優しく包んだ。

* * *

「……これから、どうするの?」
 赤い目をこすりながら、千早が聞いた。
 風が吹く。また桜の雨が降る。甘い香りが二人の鼻腔をかすめた。
「さぁ、ね。ただ、一つ言えることがあるわ」
「なに?」
 律子は千早の肩に手を置く。
「あなたは、逃げなさい」
「え――?」
 千早が目を見開いた。
「アイツの調査に踏み切ったのは私。アイツの暗部に触れてしまったのも私。……アイツの罠にかかったのも私」
「そんなこと――!」
 千早は律子の肩を揺さぶる。髪を振り乱しながら首を振る。
「手を下したのは私だし、律子に調査を頼んだのも、私よっ! だって、た、た、高槻、高槻、さんが……っ」
「……千早」
 律子は首を振る。また泣きそうな千早を慰めるように、優しい声音で言う。
「高槻さんが、あんなことに――」
 千早が顔をかきむしる。過去を振り切るように、強く首を振る。
「忘れましょう。そのことは」
 律子は千早の手を強く握った。まるで血が通っていないかのように冷たい手だった。
 律子の温もりに触れたからか、徐々に千早の震えが収まった。
「……ごめんなさい。私、」
「いいのよ。千早の気持ちは、私だって分かる」
 一度律子は息をついて、仕切り直してから続けた。
「だから言うの。千早。あなたは、逃げなさい。やよいの側にいてあげられるのは、もう、あなたしかいないんだから」
「だ、だからって……っ!」
 千早、と律子が強く言った。
「凶器の指紋は拭いておいた。私は目撃されたけど、あなたはされてない。アイツの体は重かったけど、私一人で運べなくはない、埋めたスコップを触ったのは私だけ」
 律子は眼鏡の位置を直した。その眼差しは、揺らぐことはなかった。
「でも、でも……!」
「いいのよ、本当に。私はね」
 律子は目を細めて、夜空を見上げた。月は出ておらず、どこまでも深い闇が広がるだけだった。
「千早みたいに歌もうまくない。あずささんみたいにスタイルもよくない。春香みたいに笑顔もかわいくない。――人より頭がいいって思ってはいたけど、」
 その瞳は、何も映さない。
「――私だってね、誰も護れなかったのよ? 千早」
 その声に、何の色もない。
「芸能界の厳しさは知ってた。アイツみたいな輩が存在することも、分かってたはずだった。だけど、判断が遅すぎた。千早に揺さぶられてやっと気づけた。自分の馬鹿さに」
「そんなこと――」
 ない、と千早は言おうとした。
 しかし、口を閉ざした。
 再び千早へと向けた律子の微笑は――
 泣きたくなるくらい、美しくて。
 まるで、散りゆく桜のように。
「私、765プロのみんなこと、大好きだった。大好きだったのよ、千早」
「律子――」
 律子は、地面においてあった紙コップを持った。
 そうしてから、胸ポケットから、錠剤を取り出す。
 白い、結晶。
「いざというときはこれで何とかなるとか思ってたけど……結局、使わなかったわね」
 律子は何の躊躇いもなく、風邪薬でも飲むかのように、
 その錠剤を、口に放り込んで。
 紙コップの中の水を、飲み下した。
「り……っ!」
 あまりに自然な動作すぎて、千早は反応ができなかった。
 千早は、その錠剤が何かは知っていた。あらかじめ律子に聞いていたからだ。
 その錠剤の違法性。そして、致死性を。
「千早」
 小さく、律子が言った。脂汗を浮かべながら、微笑みを作っていた。
「あなたにも、一応、渡しておくわね」
 律子は、もう一個の錠剤を、震える手を伸ばして千早に渡した。
「……どうするかは、あなたが、決めて」
 その言葉を最期に、律子の声が途切れて。
 地面に突っ伏して。
 そのまま、二度と起き上がらなかった。

「――律子!」

 千早は叫んだ。叫んだが、既に手遅れであることも理解していた。
「律子! 律子!」
 ざぁ、と一際強く風が吹いて、大量の桜が舞った。花びらが律子の体を隠すように降り注ぐ。
 まるで、慈しむように。

* * *

 如月千早は、涙が枯れるまで泣き尽くすと、ふらりと立ち上がった。
 右手には、紙コップを。
 左手には、律子から渡された錠剤を。
 ふらふらと、桜並木を歩いてゆく。

 彼女の姿は、花びらの雨に溶けていった。
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この記事に対するコメント

ズミコさんの絵は、悲しいのが似合うな…。エロ成分が自分には少々きついのだけど、
ストーリーは良く練られてる。

救われない物語大好き人間としては、ご馳走様でしたと言わざるをえません。

綺麗な桜の木下には、死体が埋まっています。
【2010/03/27 23:11】 URL | しぐみん。 #- [ 編集]


自己犠牲・・・当人はいいけど 残された人がそれを
背負って生きられるかは別問題ですね

自己犠牲って自己満足でしかない部分があるから
ある意味律子は最大の罪を千早に対して犯したのかなと……
【2010/03/28 00:32】 URL | トリスケリオン #UzUN//t6 [ 編集]


>しぐみんさん
割と今回は儚さが前面に押し出されている感じがしますしねー。
ぼくもそんな雰囲気を出してみました。
救われない物語は大好きです!

>トリスケリオンP
死っていうのはある意味逃避ではありますからねー。
割と律子の行為は褒められたものではないかもなーと思いました。
【2010/03/29 02:10】 URL | 陽一 #- [ 編集]

拝読致しました
夜桜というと、不思議と死を連想してしまいますね。恐ろしい位の美しさといいますか。
今回のSSでは主に律子さんと千早さんに焦点が置かれて物語が流れていましたが、
その横に流れる物語も気になってしまいますね。やよいさんはどうなったのだろうか…
ストーリー全体を通しての世界観も素敵で、暗澹とした雰囲気が怖いくらいに美しいと感じます。
まさに夜桜の雰囲気といった感じ、ラストの部分では心の底にいい感じに不気味さを覚えました。
素晴らしいSSをありがとうございました!
【2010/03/29 03:56】 URL | 小六 #- [ 編集]

拝読させて頂きました
「律っちゃん……」「律っちゃんヤバい」「やばいやばい」「あああ死亡フラグまで…!」
「律っちゃん死なないで!」「死なないでえええ!!」「りっちゃあああああああん!」

と、コメント打ちそうになりました。

律っちゃん……
【2010/03/29 20:52】 URL | 寓話 #SFo5/nok [ 編集]

まさかの。
背景と心理描写と展開を考えたら、
とても自然にラストシーンを迎えられてしまうのですが、
だからこそこの悲しい結末を防ぐ為には、
いったいどこまで時計の針を巻き戻さなければならないのか、と。

重く、苦しく、切なく、悲しいお話です。
どこかに救いは無いものかと、どこかで報われやしないのかと。
コメント書くのが、とても難しかったです。

律っちゃん……
【2010/03/30 01:40】 URL | ガルシアP #MhlNZB0o [ 編集]


>小六さん
最初イラストを見たときのイメージが、哀しげな雰囲気だったので、こんな話を書くに至りました。
サイドストーリーは考えてなくもないですが、恐ろしく長くなるし恐ろしくえぐい話になるのでさすがに自重しました。
やよいさんはきっと元気に暮らしてます。多分。きっと。

>寓話さん
律っちゃんはきっとみんなの心の中に!

>ガルシアさん
なんかもう色んな部分が狂ってるお話なので、結構どうしようもない感じがしなくもないです!

あまり救われない話を書きたかったので、読み終えた後暗い気分になっていただけたのならとても嬉しいです。
【2010/03/31 02:02】 URL | 陽一 #- [ 編集]


 読みに来ました~ こんばんわです

 ……って怖いわっ
 やよいは? やよいはどうなっちゃったの!?
 みたいな怖い妄想をして途中でやめた……
 う、うーむなるほど、いろいろぼかしてある分だけ妄想で勝手に補完しようとして嵌り込む……

 桜の下には死体がーはある意味お約束(某やるドラ思い出す)だが、今回思い浮かばなかったんだよなぁ……
【2010/04/04 22:12】 URL | ふるぷら~ん #PefwKnF. [ 編集]


その辺りをリアルに書きすぎると皆さんがドンビキしてしまいかねないので頑張ってぼかしました。
そのほうがより陰惨な絵がみんなの頭に浮かぶかもしれないしいいかなーって。
お読みいただきありがとうございました!
【2010/04/05 03:03】 URL | 陽一 #- [ 編集]


こんばんは! 一枚絵書いてみm@ster参加者のo-vanです。今回も読ませていただきました!


課題お披露目からわずか一日。速攻でこのような話を書けるのはすごいことですね。羨ましい限りです。

アイマスは基本的にコメディタッチというか、芸能界の華々しい部分や綺麗な部分を中心に描かれている作品ですから、逆の暗部からアプローチしたのは面白かったと思います。やよいも何かしら巻き込まれたようですし、リッチャンも下手に賢いから、自分だけで突っ走っちゃうんでしょうねぇ。

内容が内容だけに、最後の区切り方は効果的だったと思います。光明を見せるでもなく、悲しい結末を続けさせるでもなく、最終的に読者の想像に委ねるのはひとつの手法として有効ですし、今回の雰囲気にマッチしていますしね。

楽しませていただきました、ありがとうございます^^


PS.最近になってブログを始めたのですが、陽一Pさんのブログをリンクに貼らせていただいてもよろしいでしょうか? ご迷惑でなければ、お願いしたします。
【2010/04/05 19:47】 URL | o-van #- [ 編集]


お読みいただきありがとうございます。
なんかすぐにネタが振ってきたのでさっさと書いてしまいました。

ぼくは常に斜め上の発想をしていきたいので、いつもアイマスでこんな黒々しい話を妄想してたりします。
芸能界の暗部とか突き詰めるとかなりエンターテイメントになりうる気がするんですよねー。逆に生々しすぎて書きにくいところもあるんでしょうけど。

千早の選択はあえて書かなかったのですが、そういう風に捉えていただけるととても嬉しいです。

ブログのリンクは大丈夫ですよー。
【2010/04/06 02:39】 URL | 陽一 #- [ 編集]


あいがとうございます! さっそくリンクさせていただきました^^
【2010/04/07 00:34】 URL | o-van #- [ 編集]


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