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ちょっと内輪のIRCchでオリジナルのリレー小説を書きまして。
起承転結のチームと、序破急のチーム、2チームです。
起・承・転・結、序・破・急と全部で7パートに分かれて書いております。

全体的にそんなに出来がよいわけでは決してないですがw
急転直下の展開、「アレ?」ってなるがっかり展開をお楽しみください( ゜∀^)

ついでにおまけクイズ。ぼくが書いたのはどこでしょう。
ちなみにぼくが書いたのは起承転結、序破急のどれか1パートです。

正解者にはぼくの動画をF5連打する権利を差し上げます。





テーマ:面倒臭い女
起承転結チーム





街の風景の中で、待ち合わせ場所ほど表情の移り変わりが速いところはないだろう。
あまり趣味が良いものではないが、今日は既に10組以上の待ち合わせの行く末を見届けてきた。
大抵の待ち合わせは期待の表情から始まり、焦燥、不安、落胆、呆然という順番で表情を変える。
ほとんどの場合、焦燥か不安になる前に待ち人があらわれ、笑顔か怒りの表情を見せて終わってしまう。
実際に今日の10人は焦燥あたりで全員待ち人と共にその場を去っていった。
だが、ごく稀に待ち人が現われないケースがある。
その場合、まず落胆の表情を浮かべた後、人が通りかかるたびに期待と落胆を繰り返し
最後は呆然の表情のままその場を去ることになる。

その後姿の悲惨さは、去り人が中年の男性であろうと、若い女性であろうと変わる事はない。

そして、今俺の表情は不安から落胆に変わろうとしていた。

待ち合わせの時間は11時、そして俺の時計は今11時半を指している。
場所を間違えたはずもなく、時間も間違いない。
何度考えてもこれは、相手が遅刻をしているか……すっぽかされたかだ。

元々、この待ち合わせ自体俺が望んでしたものじゃない。
高校時代からの友人の村上が、出会い系でゲットした女の子との
初デートがダブルブッキングしたから代わりを頼むと言われて出てきただけだ。
あの面食いの村上が手をつけようとした女だということで
二つ返事でOKしてしまったのだが、これは失敗だったのかもしれない。

そもそも、俺は相手の顔も電話番号も知らない。
知っているのは、村上から譲り受けた出会い系サイトのアカウント内で
やりとりしたメール数十通と、目が黒線で隠してある女の子の写真、そしてハヤシという苗字だけだ。
やや整った顔立ちで、ほっそりとした体つきであること以外は特に特徴のない
女の子のようで、これだけでは実際に目の前に現われたところで、本人と判別できる自信はない。
つまり、俺は誰と待ち合わせをしているのかわからないともいえるのだ。
そう、顔の分からない相手と待ち合わせ、密会。

顔のわからない誰かと密会。

なかなか良い響きだ。
ミステリアスな雰囲気になってきた。
もしかすると村上は、彼女と俺を引き合わせる事で何か重要なことを伝えようとしているのではないだろうか。
そう考えると、今来ていないのは彼女の身に何かあったのではないかと思えてくる。
村上が直接俺に伝えられないこと、何だ、何だ、よく考えるだ。

「あの……村上さんですか?」

突然背中から声をかけられた。

「え、いや俺は」

振り返りながらそう言いかけたが、彼女の顔を見て言葉を止めた。
そこにいたのは、少し困ったような表情の小柄な女性だった。
彼女は俺の顔を覗き込むように首をかしげ、微笑んだ。
見覚えのある顔、そう俺が待っているあのハヤシさんだった。

「……えっ、ええ。ハヤシさんですか?」

そう言うと、彼女は「良かった」とつぶやきながら、俺の正面に回り居住まいを正した。

「良かった、遅くなっちゃいました。私、ハヤシケイコです」

これだけ遅刻したにも関わらず、彼女は何も悪びれるようなそぶりも見せずちょこんと頭を下げた。
かわいい、かわいい、かわいい。
正直ここまでのものとは想像していなかった。
絹のようなロングヘアに、コケティッシュな顔立ち。
体のラインを強調するような黒のタイトワンピース。
ここまで走ってきたのか、うなじから流れる汗と、ほとばしる甘い体臭。
まさに俺の趣味に合致する理想の女の子だった。

「いやぁ、俺も今来たところだよ」

ついつい、そんな言葉が口から漏れる。
自分の顔がとんでもなくにやけているのが分かる。

「えっ、そうなんですか?もっと前からそこにいたと思ったんですけど」

真顔でそう聞き返してくる彼女はかわいかった。

「そんなことないって」

また、そんな言葉が飛び出す。

「だって、私見てましたよ?一時間くらい前から」







「は……?」
 今、彼女は何と言った?
「まばたきが382回、溜息が12回、うち携帯電話を見つめながらが六回、クセの鼻の頭をこする動作が39回、独り言で呟いた文字数が490文字」
 すらすらとハヤシさんは言う。道行く人が見とれるような可憐な笑顔のままで。
 何を――言っているのだろう。
「は、はは、それ、なんかの小説の地の文とか?」
 いいえ、とハヤシさんは首を振る。
「貴方がこの30分にしていた動作の詳細ですよ。これくらい分かりますよね? 私、一時間前から見てたって言ったじゃないですか」
 不自然な台詞を、ごく当たり前のように言う彼女に、俺はどうしようもなく――ぞっとした。
 なんだ。一体、これは、どうなってる?
 汗が滲み出てくる。目を外したいのに、視界が狭まり、彼女しか見えなくなる。
「でも、よかった。村上さんの言うとおりの人で」
 村上。彼女はその名前を、今目の前にいる“俺”ではなく、第三者であるように言った。
 つまり、彼女は俺が、村上がダブルブッキングをしたためにあてがわれた別の人間であることを把握している。
 それが一体、何を意味するのか。
 予想もつかなかったが、あまり考えたくもなかった。
「三十分観察させてもらって、分かりました。あなたは、合格です」
「……なに、を」
 言っているのだろうか。
 合格? どういう意味だ?
「条件は簡単です。吸った息の総量が、この30分で312.5リットル。あと0.1リットルでも少なかったら危ないところでした。この差は大きいんですよ。クレオパトラも、一日の呼吸量がもう0.1リットル多いか、腕がもう一本多ければ歴史を変えていたことでしょう」
 訳がわからない。これは笑えるギャグなんだろうか。
 が、気づいた。ハヤシさんは、顔には微笑みを浮かべてはいるが、目はまったく笑っていない。
「早速、ご案内します。こちらです」
 抵抗する間もなく、ハヤシさんは俺の手首を掴んだ。
「ちょ、……っ!」
 慌てて振りほどこうと思ったが、まるで万力に締め付けられているような膨大な力で、彼女は掴んで離そうとしない。
 するといきなり、すう、と彼女の目が細められた。完全に、彼女の顔や雰囲気から“笑顔”の要素が消失する。
「走ってください。気づかれました」
 言うやいなや、ハヤシさんは地面を駆けだした。陸上ランナーもかくやというほどの速度で、ついていくのがやっとだった。
 待ち合わせ場所だった広場を抜け、歩道へと出る。
 手を掴まれたまま、引きずられるように走らされる。
 抵抗はできなかった。頭も、体も、彼女の行動についていかない。
「避けてください」
「は?」
 突如、俺の数センチ横の歩道が、凹んだ。
 比喩ではなく、誇張表現でもない。プラ板をべこりと凹ませたように、クレーター型に地面が沈んだのだ。
 なのに、凹ませた原因が何かのかはまったく分からない。まるで、見えない巨人が走って俺たちを追いかけてきているかのようだ。
「まだ、来ますよ」
「な、何が――」
 起こって、と続けようとした俺の言葉は、再び地面の陥没に遮られた。
 べこん。ぼこんばこん。横、前、後ろ。片っ端から、俺の視界にある地面が高低差を激しくしてゆく。
 あんなのに巻き込まれたら一体どうなるのか……そう思っていたとき、道ばたを歩く人が、その陥没に巻き込まれた。
「ぎゃあああっ」
 巻き込まれたその人の足は、綺麗さっぱり“消失”した。マジックで消されたように。
 その数秒後、消された足の場所から、血が噴水のように噴き出していた。
「なん、で……」
「有象無象に構っている暇はありません。あなたは、さあ、早く」
 ハヤシさんのせっぱ詰まった声も、俺の混乱と恐怖を加速させる。
 彼女は後ろに目がついているかのように、俺を誘導して地面の陥没から避けながら、走り続けた。
 逃げたい。彼女から、逃げたい。なのに、逃げられない。彼女は、俺を掴む手を離してくれない。
 誰か、助けてくれ。なんでこんな目に遭ってしまったんだ。

 何十分走っただろうか。俺には一時間にも感じられた。
「ここです」
 ハヤシさんの足が、ぴたりと止まった。
 いつの間にか、地面の陥没の追跡は止んでいる。
 奥歯と手足はがたがたと震えていて、もう抵抗も反論もできなかった。
 それ以外に何もできない俺は、彼女が立ち止まった場所を、見回した。
 そこは、太陽に照らされ、逆光で黒く染まった、一軒のビルだった。






「……なんだ、これは」
 ビルの異様な雰囲気に、思わず絶句する。眼前にそびえ立つのは、築三十年は経過しているであろう古びた五階建てのビルだ。ところどころに亀裂が走っていたり、階段にある金属製の手すりが錆びているのを見ると、ろくに改築もされていないのだろうか。
 ただ、ビルの異様さの原因は建物の古さではない。外から見える窓全てに、黒い布が垂れ下がっていた。それだけでも奇怪な光景であるが、黒い布に人の目が描かれているせいで、さらに気味の悪さが際だつ。
 なんの儀式、あるいは趣味かは知らないが、これを掲げている人間はまともな神経の持ち主ではなさそうな気がした。
「どうかしましたか?」
 くるりと振り返り、俺に笑顔を向けるハヤシさん。彼女は、このビルの異様さを気にしていなさそうに、俺の行動に首をかしげている。
「一応聞いていいですか」
「ええ」
「このビルに用があったりしますか」
「はいもちろん」
 できれば肯定されたくないことを、満面の笑みと共に肯定された。
「さあ、次が来る前に早く」
「ちょ、ちょっと!」
 抗議の声をあげるが、再び俺の手を掴んだハヤシさんは
俺の言葉に耳を傾けるつもりがないんらしい。
「せめて説明を……!」
「ねえ」
「えっ?」
「彼のようになりたいのですか?」
 ハヤシさんの言葉に、地面が陥没し、サラリーマンの足が消え、血が噴き出す光景が脳裏に蘇る。背筋がぞくりとした。さっきまでと雰囲気ががらりと変わって、冷たい視線が俺を見据えている。彼、というのが先ほどのサラリーマンを指しているのは明白である。
 一瞬考えて、首を横に振る。
「なりたくなければ急いでください」
 ハヤシさんの言葉に、向かう先にあるビルの不気味さも忘れ、ただ走り出した。ぼんやりとした恐怖より、いつ自分に向かうかわからないあからさまな危機の方が怖い。
 今は収まっているその現象が再び起きれば、自分だってあのサラリーマンと同じ運命をたどりかねないのだ。
「ここまで来れば大丈夫でしょう」
 俺がビルの階段の一段目に足をかけたところで足を止めて、少し安堵したように言うハヤシさん。
「な、なんなんだよあれは!」
 あまりに意味がわからない展開に、思わず感情が口に出る。しかし、ハヤシさんは表情を変えず、走った時に出たであろう額の汗を拭っていて、動揺の素振りは見られない。
「自然現象ですよ」
「は?」
 想定外のハヤシさんの答えに、馬鹿みたいに気の抜けた声が出た。
 自然現象。彼女はそう言った。
 SF映画に出てくるような未来技術でも、ファンタジーに出てくるような魔法でもなく、自然現象と。
「未来や宇宙、あるいは古代文明の超科学、もしくは魔術的な力だと思いましたか?」
「う……」
 見透かしたかのような彼女の台詞に、思わず言葉が詰まる。
「あなたを選んだ甲斐がありました」
「え? そ、それはどうも」
 情けないやら恥ずかしいやらという気分の俺を余所に、とても嬉しそうなハヤシさん。まるで恋する乙女のような目である。こんな状況でそういう目を向けられても、何も嬉しくはないが。
「って、そうじゃなくて!」
「どうしました?」
「自然現象って、あれが?」
 生まれてこの方、あんなことが起きる自然現象は見るどころか聞いたことがない。
「それを聞いてきますか」
「それ以外にもこのビルがなんだとか、選ばれたってなんだとか、色々聞きたいことはあるけどな」
「……さすが選ばれない方です」
「は?」
「いいえなにも。あ、自然現象か否かということについては、さきほども言ったようにイエスです」
 訳のわからない呟きが聞こえたので聞き返すが、再度言うつもりはないらしい。
「あんな自然現象、聞いたことがないぞ」
「そりゃそうでしょう。どこの国でも隠蔽されてきましたし、現象が起きるのは数千年ぶりだそうです」
 重要な機密っぽいことを軽い口調で言うハヤシさん。
「数千年ぶりって……」
「詳しい説明は中でさせていただきます」
「えっ?」
 そのまま一階の廊下の奥へ進むハヤシさん。廊下にも例の布が何枚もかけてあって歩くことはご遠慮願いたいが、このまま回れ右すれば自然現象とやらに再び遭遇しかねない。仕方なくハヤシさんに付いて行くことにした。
「それでは、改めまして」
 ハヤシさんは廊下の奥まで進んだところで足を止め、くるりと回って俺に笑みを向ける。
 そして、一言だけこう言った。
「ようこそ、気象省へ! 脱落者さん!」






 ハヤシさんは笑顔のまま、いつの間にかその手に握っていたリモコンの、赤いボタンを押す。
 その瞬間、足元が消失したような感覚とともに、浮遊感に包まれる。

「――え?」

 どこか間の抜けた声を上げながら、目線を足元へ向ける。
 底など見えぬ深遠の黒。音も無く、ぽっかりと空いた大穴が、僕の足元に広がっていた。
 そのまま指一本も動かせぬまま――俺は、奈落の底へと落ちていく。


「追試です、脱落者さん。
 次は満点目指して下さいね。約束ですよ」

 何故か遠ざからないハヤシさんの声を聞きながら、真っ逆さまに落下していく。
 なんで。どうして。
 様々な疑問が浮かぼうとしながらも、形にならずに霧散していく。
 そうしているうちも、落ちて、落ちて、落ち続けて。
 どこが底かも分からない穴を落ち続けて。
 今なお、停止した思考の中、これまでの人生――いわゆる走馬灯というやつだろう――をどこか客観的に見ていた。
 大学。高校。中学校。小学校。幼稚園。遡る様にしてフラッシュバックする人生のアルバムの中に、奇妙な符合を見つける。
 フラッシュバックした、どのシーンの中でも、何故だかハヤシさんの姿が見られるのだ。

 そんなはずはない。
 俺と彼女は初対面のはずだ。

 絹のようなロングヘアも。
 コケティッシュな顔立ちも。
 体のラインを強調するような黒のタイトワンピースも。
 ハヤシさんを構成する要素に、見覚えがない。

 そもそも、どうして今日、出会うことになった?

 そうだ。
 村上が出会い系でダブルブッキングしたから、代わりを頼まれて――

 いやまて。
 そうじゃない。

 何かが噛み合わない。
 何かが決定的に狂っている。

 何がおかしい。何処がおかしい。

 そうして必死に考えを巡らせているうちに、脳裏に一つの疑問が浮かぶ。



「――村上って、誰だ?」

 そう呟いた瞬間。
 脳裏に浮かぶ、一人の女性の姿。
 絹のようなロングヘアにコケティッシュな顔立ち。
 走馬灯の中に見られた、あの彼女の姿が浮かび――

 何かが爆ぜる様な感触に包み込まれ。
 俺の意識は、消し飛んでいった。 


***


 ――ふと時計を見ると、11時半を指していた。
 他人の待ち合わせを見ながら、少しぼんやりとしすぎていたらしい。時間の感覚が少し曖昧になっていたようだ。
 待ち合わせている女性の姿を探すが、やはり姿は見えない。

 待ち合わせの時間は11時、そして俺の時計は今11時半を指している。
 場所を間違えたはずもなく、時間も間違いない。
 何度考えてもこれは、相手が遅刻をしているか……すっぽかされたかだ。

 元々、この待ち合わせ自体俺が望んでしたものじゃない。
 高校時代からの友人の村上が、出会い系でゲットした女の子との
 初デートがダブルブッキングしたから代わりを頼むと言われて出てきただけだ。
 あの面食いの村上が手をつけようとした女だということで
 二つ返事でOKしてしまったのだが、これは失敗だったのかもしれない。

 そもそも、俺は相手の顔も電話番号も知らない。
 知っているのは、村上から譲り受けた出会い系サイトのアカウント内で
 やりとりしたメール数十通と、目が黒線で隠してある女の子の写真、そしてハヤシという苗字だけだ。
 やや整った顔立ちで、ほっそりとした体つきであること以外は特に特徴のない
 女の子のようで、これだけでは実際に目の前に現われたところで、本人と判別できる自信はない。
 つまり、俺は誰と待ち合わせをしているのかわからないともいえるのだ。
 そう、顔の分からない相手と待ち合わせ、密会。

 顔のわからない誰かと密会。

 なかなか良い響きだ。
 ミステリアスな雰囲気になってきた。
 もしかすると村上は、彼女と俺を引き合わせる事で何か重要なことを伝えようとしているのではないだろうか。
 そう考えると、今来ていないのは彼女の身に何かあったのではないかと思えてくる。
 村上が直接俺に伝えられないこと、何だ、何だ、よく考えるだ。

「あの……村上さんですか?」

 突然背中から声をかけられた。

「え、いや俺は」

 振り返りながらそう言いかけたが、彼女の顔を見て言葉を止めた。
 そこにいたのは、少し困ったような表情の小柄な女性だった。
 彼女は俺の顔を覗き込むように首をかしげ、微笑んだ。
 見覚えのある顔、そう俺が待っているあのハヤシさんだった。

「……えっ、ええ。ハヤシさんですか?」

 そう言うと、彼女は「良かった」とつぶやきながら、俺の正面に回り居住まいを正した。

「良かった、遅くなっちゃいました。私、ハヤシケイコです」

 これだけ遅刻したにも関わらず、彼女は何も悪びれるようなそぶりも見せずちょこんと頭を下げた。
 かわいい、かわいい、かわいい。
 正直ここまでのものとは想像していなかった。
 絹のようなロングヘアに、コケティッシュな顔立ち。
 体のラインを強調するような黒のタイトワンピース。
 ここまで走ってきたのか、うなじから流れる汗と、ほとばしる甘い体臭。
 まさに俺の趣味に合致する理想の女の子だった。

「いやぁ、俺も今来たところだよ」

 ついつい、そんな言葉が口から漏れる。
 自分の顔がとんでもなくにやけているのが分かる。

「えっ、そうなんですか?もっと前からそこにいたと思ったんですけど」

 真顔でそう聞き返してくる彼女はかわいかった。

「そんなことないって」

 また、そんな言葉が飛び出す。

「だって、私見てましたよ?
 ずっと前から」


おしまい。


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テーマ:面倒臭い女
序破急チーム



※文中『ヒロイン』にはヒロイン役の女性の名前を当てはめます。(例:美希等)
 『破』『急』において都合のよい名前を差し込んで構いません。

『序』

 人には、いや男にはやらねばならない時ってのがあるんだ。
 試練。越えねばならない障害。俺はそれに全力で立ち向かっていかなければならないんだ。
 そう、例えそれが鉄と機械と用途不明のパーツに四方を囲まれながら、これまた複雑怪奇、珍妙奇天烈なボタンを持った壁を反射神経の限界に挑戦するかのように次々と押さなければならないなんて、どうしようもない試練であってもだ。
 カラフルに光り、押せよと無音の命令を俺に下してくるボタンたち。しかし、なんて書いてあるんだ? いやいや、そんなこと考えてる暇なんてない。意識を超えて無意識のさらに底、反射の奥深くまでフルに活用して両手を繰り出し、ボタンを叩き続ける。ああ、空が青いぜ。視界は冗談のようなコンソールと化したボタン壁に固定されているのにもかかわらず、自分の後頭部のさらに向こうまで見渡せているかのような錯覚。なんてことだ。これから俺が社会に出たとしても一切役に立たないだろうスキルに目覚め、活用しているという馬鹿ばかしさと恍惚感。その全てをこめて最後のボタンを叩く。
「どうだこんちくしょう!」
 左手下、地上より聞こえるブラスバンドのファンファーレと共に、コンソールから既に聞きなれてしまった機械的なアナウンスが響く。
『クリアです。次のステージへ移動してください。StageLv 28 par 200』後半は相変わらずなぜか流暢な英語だ。新幹線のアナウンスもそうだが、日本語の後にいきなり英語が聞こえてくる唐突さにどうしても笑ってしまうのだが、これって俺だけなんだろうか?
 プシュー。炭酸ガスを噴出しながら自動扉よろしくコンソールが2つに割れ開く。扉が開ききるのもまたずに体をすべりこませる。
『StageLv 29。これからアナタには……』
 俺を出迎える次のアナウンスを無視して目標にかぶりつくように突進する。だだっぴろい部屋の中央、床から延びた腰までの高さの小型の木製円柱。その上部に真横から十字にぶっ刺さった横棒を両手ではっしとつかみ、駆け込んだ勢いそのままにぐいぐいと押し円柱を回す。ギギギと軋みながらもゆっくりと回る円柱。傍から見れば古代の奴隷のような有様だろう。これでムチを持った兵隊がぴしゃりと床を叩いていれば完璧それだ。てか、あれって一体なにをするためにまわしてるんだ? 麦か? 小麦を挽いてるのか? 床を貫通し伸びているだろうその先を想像する。やはり石臼か? 石臼なのか!? くだらないことを考えているうちにアナウンスが完了する。俺の直感どおり、この円柱をまわせばいいらしい。遅いな。アナウンス! 俺はすでに28の試練を乗り越えたベテラン様だぜ? 俺の理解より早く説明を終えたきゃ、ゲートをくぐる前にやりなっての。50周? ちょろいちょろい……ん? 固くなってきた? つっぱった両手にかかる反作用が次第に重くなってきている。まさか、締まってきているのか。さすが試練。たちが悪いぜ。ぐるりと半周して視界に納まった“頂上”に目をやる。
 思わず笑ってしまうほどに広大な敷地の中に建った、どこの中世だよって突っ込みたくなるような大きな城――これが“数あるただの別荘の一つ”っていうんだから笑いを通り越してあきれてしまう――の右翼に突き出た一本の大きな塔。その最上部の部屋に向かってかすかにたわみながら、なだらかな坂道が続いている。道といっても足場を櫓(やぐら)で組まれた金属製の“宙に浮かぶ道”だ。一直線に伸びたこれは、道幅は4車線の公道ほどで、同じく金属製の壁で200の部屋に仕切られている。もし、飛行機で上空から見れば、ディズ○ニーのシン○デレラ城に、とってつけたように長大な滑り台が付いている。そんなおもちゃ遊びに飽きた子供が悪ふざけでやるような冗談みたいな全貌が見渡せるだろう。今俺がいるのはその29個目のフロア。全長何メートルあるんだ? キロ? 6分の1の道のりを来てまだなお、目標の塔が消しゴム大にしか見えない。全てにおいてスケールがでかい。さすがだ、といわざるをえない。
「お兄ちゃん! もうやめようよこんなこと!」
 櫓の足元、お抱えブラスバンドと一緒に追いかけてきているであろう、我が妹の叫ぶ声が聞こえる。
 答える代わりに、より一層力をこめて円柱をまわす。
 妹よ。緑色の髪がキュートな妹よ。半分だけ出した指で長めの袖をつかみながら、潤んだ瞳で見つめただけで世界の半分の男は落とせてしまうだろう自慢の妹よ。兄ちゃんは行かなければならないんだ。やらなければならないんだ。
 汗が滴り落ち、額の血管が浮き出ているのが拍動の触感で分かる。2時間かけてセットした髪だって既にボサボサだし、前夜から悩み続けた服だって汗と汚れで見るも無残だ。一番の俺の勝負服だったジャケットは3フロア目で早くも脱ぎ捨てた。こんなザマになったとしても俺は行かなければならないんだ。“ヒロイン”が待つあの部屋に!
 ヒロイン……ああヒロイン。俺の思考が過去へと立ち戻る。俺がここにいる訳を。俺が何をしなければならないか、その根源たる出来事を思い出し、より一層奮起するために。

 彼女は笑っていた。
 そう、西洋絵画をより洗練したかのような整った目鼻立ちが崩れるか崩れないか、その絶妙のバランスを保ちながら、あの日も笑っていたんだ。
 夕日の差し込むオレンジ色の教室。いつも絶やさないその妖艶な微笑みを俺に向けていた。
「お付き合いを始めて、もう随分たつでしょう? 私達」
 大人びた仕草が似合う彼女。特に、ややクセのある長い髪をかき上げる仕草は絵になった。ただの制服で身を包んでいても、その生まれや気品がにじみ出てくるような高貴さを彼女は持っていた。
「だから、今度の休日はあなたを私の部屋に招待させてもらおうかしらと思っているのだけれど?」
 質問であっても答えは必要ない。俺がなんと答えるかなんて、彼女には分かりきっている。そういう響きを含んだ言葉だった。俺だってそんなことは百も承知だったので、ただ彼女の次の言葉を待っていた。
「ありがとう。でも、ただのデートではつまらないでしょう? だから、ほんの少しおもてなしの趣向を凝らしてみたの」「あなたもきっと気に入ってくれると思うわ」「もしあなたが私のおもてなしを気に入ってくれて、私の部屋まで来てくれたなら……」
 言葉を切り、軽く息を吸い、ゆったりとした動作で数歩近づいてくる。ただそれだけでこの教室に流れる空気も時間も、全て支配したかのようだ。彼女のプリーツスカートが俺の脚に触れるか触れないか、そんな距離でゆっくりとかかとを浮かせ、そっと俺の耳元まで顔を寄せて、甘い言葉を紡ぎ出した。
「もしかしたら……いいえ。きっと私、あなたに体を許してしまうかも……」
 ゴクリと喉が鳴る。桃色の頬、桃の香り、桃のような胸の谷間。幻想的で幻惑的で魅惑的で蠱惑的なその全てに、心をわしづかみにされてしまう。
「お、お兄ちゃんをたぶらかさないでよ!」
 ああ、妹よ。お前の入っている風呂の扉をそれと知らずに開けてしまったとき、小ぶりプリンほどに胸が育っていることが判明した妹よ。間違いとはいえ覗きにも近い犯罪行為をしでかしてしまったこの兄を、ビンタ一発で許してくれた心優しい我が妹よ。
 どうかこの場は邪魔をしないでくれないか。
 これは契約なのだ。
 神聖で犯すべきではない、ヒロインと俺に交わされる契約の儀式なのだ。“契り”なのだ。
「わかった。必ず行こう」
 俺の言葉に満足げに目を細め、身をひるがえした。はねた髪が俺の胸を軽く撫でる。そのことに俺は彼女からの期待を読み取った。後姿だけで俺を骨までとろかすような甘いスタイル。小ぶりな尻が歩みにあわせてゆれながら消えていく。
 俺は、あれを手に入れるんだ!
 それから約束の日、早朝。彼女の指定する住所まで来てみたものの入り口も何も見つからず。バス停のすぐそばにぽつんと建った小屋を訪ねると確かにここは彼女の家が所有する別荘の一部らしい「どこら辺にありますか?」「もう既にここがそうですよ?」「え?ただの大自然あふれる林にしか見えないのですけど」「いえ、まあ確かにここはほんの入り口ですけどね。大体見渡せる範囲はお嬢様の物ですよ」「これがですか?」「ええ。あの山の向こうもそうですけどね。大体皆様迷子になられてしまいますので、私がお車でご案内いたしましょう」なんて規格外。人のよさそうなおじさんに連れられ、もう既に始まっていたらしい“おもてなし”の一環として、“迷いの森”で珍獣――おじさんの素晴らしいドライビングテクニックをもってしても、高そうなジープのルーフをごっそり持ってかれるほどの被害を受けた、恐ろしいやつだ――に追い掛け回され、落ちたつり橋をファイト一発と引き上げ崖を渡り、入場ゲートへなんとか到着したが、ここでも準備運動とばかりに待ち構える8人のマッチョ執事たちとの激闘に辛勝し、今に至る。
「ぐぎぎぎぎ」
49周を経て、ほとんど床に固定されてるんじゃないかと思うほどに固く締まった円柱を、力を振り絞り押しまわす。全体重を預けて全身のばねを使い、俺そのものも地面と棒をつなぐ一直線のオブジェのようになりながら、じわりじわりと進んでいく。木と金属と、あとは床下の何か分からないモノが擦れて耳障りな音を立てる。円柱の断末魔がひときわ大きく響きわたった瞬間。不意に手ごたえが無くなり、ぐるりんと回る。ぶつける力のよりどころを失った俺は、その勢いのまま前面に転がり出る。一転二転三転。ごろごろと転がりながら耳に入ってくるのは、おなじみのブラバンファンファーレと、間の抜けたアナウンス『クリアです。次のステージへ移動して……』
「いよっしゃぁ!!」
 ガードの固いお嬢様の気まぐれ。この機を逃せば二度と手に入れられないのではと思うほどに高みにある禁断の果実が、契約という確かなつながりによって地上へ降ろされたのだ。それを思えば、塔の高さがどれほどであろうと、この道のりがどれくらいあろうとも些細なことでしかない。この道の先にある部屋と俺の下半身は細くも固い絆でがっちりとホールドされてるんだ。ヤりたい盛りの男子高校生の底力甘く見るんじゃないぞ。肉欲と激情と劣情と若さと好奇心と青さと、これらの混濁した塊に突き動かされるように俺は走る。
 お次は何だ? クイズ? でかでかと視界を埋める横長のディスプレイに“第一問”の文字と共に長々と書かれたテキストと、4つの選択肢。『ラスター彩陶で有名な中東アジアのある地域における、特殊な婚姻形態が昨年話題となりましたが、現在その中でもっとも多くのエムへントを保有している人物の名前は?』知らん! まったく分からん! 見覚えのないそれっぽい名前が並ぶ。ディスプレイの前に設置された4つのボタンが俺に選択を迫る。体力でもガッツでも乗り越えられない、ここに来て知力問題とはっ! 絶望に頭を抱えてしまう。愛は障害が大きければ大きいほど燃え上がり、登山家はそそり立つ険しいその山を見れば上らずにはいられない。なんだ、たかが4分の1じゃないか。これまで潜り抜けた試練に比べてなんてたやすいのだと思い込むことで奮起し、ボタンを睨み付ける。ヒロイン……あの塔の部屋で体を熱くし俺を待ち焦がれる彼女の姿を想像する。彼女と俺の下半身は見えない糸で固く結ばれているんだ! その糸の向かう先、その臭いにも似た痕跡を手繰り寄せ、あるかないかの手ごたえと確信でもって俺はCのボタンを叩く! ピンポン『正解です』そうか、そういうことか。俺に必要なのは知識でもなんでもない。ただ彼女の元へたどり着くという信念。選び出すという手順ではなく、既に敷かれたその道を踏み抜き、前進するという逆説的な攻略法!
「童貞を……なめんな!」ピンポン『正解です』「童貞なめんなっ!」ピンポン『正解です』「童貞なめんなっっ!」ピンポン『正解です』「童貞……




『破』



少女は、その潤んだ愛くるしい瞳で、目の前に続く、塔へと到る長い長い構造体を凝視していた。
袖から半分だけ露出している手先を、愛くるしく丸めて、今にも泣き出しそうにしているその彼女は、世の男たちの下劣な理想と妄想を、そのまま体現したかのような姿である。
彼女の視線の先、構造体のひとつの扉が開き、息荒く汗をかき、身なりも気にしていないというような青年が、すさまじい形相で飛び出してきたかと思うと、次の扉へと駆けだしていく。
「お兄ちゃん! もうやめようよこんなこと!」
かわいらしい声をはらして叫ぶ少女の声も聞こえていないのか、青年は、闘牛の如く、新たに開いた扉へとすいこまれていった。どうやら青年、彼女の兄には、成し遂げなければならないことがあるようだった。
しかし、その兄の必死さは、少女にはとんと理解することができず、さらにいうなれば、自分に振り向くこともなく、その目的に向かって猪突猛進する兄に、少女は軽い怒りと嫉妬を覚えずにはいられなかった。
(お兄ちゃんなのに!私のお兄ちゃんなのに!)
と、少女は心の中で怒りをあらわにし、顔をゆがめて、華奢な手をギュッと握りしめた。

少女は、依存せずにはいられない人間であった。
本人にその自覚がないことが、性質の悪さに拍車をかけていた。
中学生1年生のころに、初めて告白されたときは、自分は人から好かれているといううれしさのあまり、それまで依存しきっていた兄のことも忘れて、彼氏との付き合いに没頭したが、毎日50通のメールを送りつけるという異常性に、それほど時をへずして、彼氏のほうが根を上げてしまったことは、想像に難くない。
他にも、気に入った人間には、実家、合宿先、バイト先までつけまわしたり、地方ヒーローモノのストラップを無数に送りつけてたり、―これは、かわいいのでおすそわけしているもり、らしいのだが―、人の部屋を、よかれと勝手に模様替えしたりと、限度を超えた滅茶苦茶さに、女友達もろくにいない始末である。
そんな彼女が、最終的な依存先として見出したのが、兄だった。
兄は、馬鹿で、甲斐性なしで、童貞で、それゆえに彼女のメールアタックにも難なく対応し、あらゆるストーカー行為をものともせず、善意の押し売りにも感謝の言葉を述べる。まさに彼女にとって、最高の寄生対象であった。
そうして、兄の懐のもと、ぬくぬくと暮らしていた矢先、あの女が現れたのである。
(私のお兄ちゃんなのに!)

扉が開き、猛鬼のごとく兄が飛び出してくるたびに呼びかけ、その姿が次の扉に吸い込まれ、また扉が開き兄が飛び出し声を呼びかける、を、何度か繰り返しているうちに、ついに兄の姿が少女からは見えなくなってしまった。
にもかかわらず、彼女の横で待機しているブラスバンドは、定期的にファンファーレを演奏する。
どうやって見えているかは少女には不明だったが、それよりも、兄の姿が見えなくなってしまったことのほうが、少女にとっては気がかりであるし、数分もするうちに、大きな不安が胸のうちからこみ上げてきた。
自分も兄を追いかけようかとそわそわしていると、兄が最初に入って行った扉とは違う、隣の扉が突然開いた。しばらく少女はためらったのち、意を決したのか、おずおずと扉をくぐった。
部屋の中に少女が足を踏み入れた瞬間、後ろの扉が閉まり、まっくらな部屋の中で、ナレーションが響き始めた。
『ようこそ、エクストラステージへ。Welcome to the extra stage!
 このステージでは、通常のステージよりは難易度が上がりますが、クリア時にはいくつかの得点がつきますので、がんばってくださいね。
 それでは始めます。EXTRA StageLv 001! 部屋から脱出してください。』
バチンッと、照明が部屋を照らし、前方の壁に設置された、出口であろう扉の前に、妨害するように堀があり、堀の底ではメラメラと炎が燃えたぎり、頭上からは徐々に天井がせり下がってきているという、いわゆる絶体絶命という状況を、少女は眼前につきつけられた。
「・・・・・・え?」


『クリアです。次のステージへ移動してください。StageLv 98 par 200』
もうこの流暢な英語も聞き聞き飽きましたよワトソン君。ワトソンといえば、エマ・ワトソンって昔はすごくかわいかったなぁ。今は世間では劣化したなんて言われてるけど、今は今で大人の魅力がたまらなく素敵だと、俺は思うわけだ。
そんな大人の魅力を少女ながらにかもしだす可憐な女性に誘惑されたとなれば、だれだって必死になるだろ?当たり前だぜさっちゃんよ。
ほぉら、もう99だ。半分そこらまできちゃったよマジで。
『StageLv 99。次のお題に答えてください。』
ほぉ、このステージもクイズか?いや、答えろっていうのは、きっとそういう意味ではなくて、お題に対してなにかしらのリアクションをしろ、ということかもしれないぞ。まぁどちらにせよ、楽勝だよ楽勝、余裕のよっちゃんイカだって乾燥して臭っちゃうくらいだよ。
さぁ、なんでもどんときやがれ。
『空中モンゴメリン』
なんだよ、モンゴメリンって。モンゴリアンじゃなくてモンゴメリンなの?空中とついているあたりに、何かしらの体育競技的な響きを感じるが・・・・・・。
あ、俺わかっちゃったよ。
これは多分、この言葉の響きから受け取る印象を、己の体を限界まで使役して、ダレにでもウケるキャッチーなエンターテイメントに昇華させろっていうことでしょ、そうでしょ。
やばいね、これ。超余裕ですよ、マジで。奈良の東大寺で、鹿のフンを一度も踏まないように歩くのはすごく難しいけど、これに関しては超余裕だよ、マジで。
だって、空中モンゴメリンでしょ?
まずは助走をつけるでしょ?
そして加速が最大に達したところで、人間の常識を超える大ジャンプをかますでしょ?
そして最高地点に達するまでにひと回転して、足をV字に開脚して、キメのマーベラスッ!
・・・・・・尻打っちゃったよ。すごく痛い。
『Good Job。』
ここにきて、野太い男の声のナレーション。判断基準は考えないでおこう。さすが童貞の俺。
『次のお題をおもしろくしてください。』
え、まだやるの。
『ゲッツ。』
あぁ、これはやばいね。
余裕だよ、余裕。
まずはズボンを勢いよく脱ぐでしょ。パンツも脱ぐでしょ。
そして、相手に向けて自分の尻の穴を晒して、
「ケッツ!」
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
『Good Job。』
俺、このおっさんの声、ちょっと好きになっちゃったよ。
しかし、このステージは、ある意味では最難問であったかもしれないな。今まで以上に臨機応変さが試され、さらには判断基準があまりにも不明瞭なため、ゴール地点を自分で見定めなければいけない。しかし、そのような難題さへも余裕でこなしてしまうところが俺なんだな。さすが童貞。
『次のお題に答えてください。』
まだやんのかよ。

まさか50問もお題だされるとは思わなかったよ。
最後の、2人3キャッツからのお局返しへつぎ、さらには庭園チョモランマへのコンボは、さすがに少し冷や汗をかいたが、それでも切り抜けてしまうのが俺なんだな。さすがに自画自賛しすぎか。
しかしこれで次はステージ100だよ。ついにきちゃったね、ホント。
もうとっくに姿のみえなくなった妹よ。お兄ちゃんはついに半分まできちゃったよ、がんばってるよ、もうちょっとで幸せの桃色エデンにたどり着いちゃうよ。
とはいえ、100の部屋は簡素だな。
うぅむ、目の前の壁に大きなモニターがあって、左右に矢印が伸びている。左にはノーマルステージと書かれている、右にはエクストラステージと。・・・・・・エクストラステージ?
うぅむ、わからん。
『StageLv 100 へようこそ。ここでは特に試練はありません。中間地点として、これから今まで通りNormal Stageを進むか、EXTRA Stageに挑戦するかを選択することができます。』
ほぉ、なるほどなるほど。休憩ってわけですな。
しかし、エクストラステージっていい響きだね。絶対クリア得点とかついちゃうカンジでしょこれ。やばいね、もう俺すでにエクストラステージに心傾いちゃってるよ。
『なお、現在EXTRA Stageでは、1名の挑戦者が挑戦中です。』
なんだと、俺以外にもヒロインを狙っているやつがいるのか?けしからん実にけしからんぞ。
こいつは早めに蹴落としておかないと、と言っている間に目の前のモニターに映像がついた。
・・・・・・。
なんで、妹がそこに映っているのだろうか。
なんかすごい火とか燃え盛ってるよ?なんか銃弾みたいなのとか飛んでるけど、さすがに実弾じゃないよね?違うよね?
『なお、EXTRA Stageでは、通常のステージよりは難易度が上がりますが、クリア時にはいくつかの・・・。』
なにか説明をしているみたいだが、それどころではない。
え、ていうかマジでなんで妹がやってるの?本気で大丈夫なのかアレ?
なんか刃物のついた振り子まででてきたよ。本気だよ、本気で殺しにかかってるよねアレ。
エクストラステージってこんなんなの?
ていうか・・・。
妹、マジでやばいよね?

『以上が、エクストラステージの概要になります。それでは今から10秒以内にどちらかの扉にお進みください。
 進まれない場合は、ドアが自動的に閉まり、二度とこの部屋からは出られなくなりますので注意してください。
 それでは、御武運をお祈りします。
 10、9、8、7、6、5、4、・・・』



『急』



「思春期の性欲舐めんなああああ!」
 無慈悲に続くカウントに、決意すらあやふやなままに俺は扉へと飛び込んだ。エクストラステージと説明されたその扉へ、である。
 別に妹が心配で飛び込んだわけではなく、そこにツンデレ的な意味合いはない。
 なぜって? 大人のライオンが子犬に襲われていたところで心配する人間はいないだろう。つまり、そういうことなのだ。我が妹は、少なくとも俺についてくるためならいかなる努力も厭わないし、そのためならば例え宇宙空間に放り出されようともなんとかする。そんな確信があるから心配のしようがない。
 そんなことよりもクリア特典だ。何がついてくるかという説明は聞こえなかったが、特典ってことはいいものに違いない。よし、覚悟完了。
『……EXTRA StageLv 101へようこそ』
 俺が己の魂に強化外骨格をまとった瞬間、例によってアナウンスが聞こえた。今度は初期ステージと同じく若い女性の声だ。ただ、風邪気味なのかちょっと声がかすれている。
 こんなことやっている暇があったら寝とけよと思わないでもないが、とりあえず今は放っておこう。
『エクストラステージでは、StageLv 101以降は複数ステージをまとめてクリアすることができます』
「ショートカットできるってことか?」
『Yes.I am an pen』
 たぶん肯定しているんだろう。習ったばかりの単語をとりあえず口にしてみた中学生、という風情の英語が聞こえた。ただ、発音だけは相変わらず無意味によくて、それが微妙にムカつく。
 だが、サービス内容自体は非常に嬉しい。ここまで合計百個のステージをクリアしてきて、体力の消耗度は馬鹿にできないぐらいになっている。だから、試練の数が減るのは非常に喜ばしいことである。
 それにもう一つ、ショートカットを喜ぶ理由はある。無事に囚われのヒロイン(自作自演)の元にたどりついたとしよう。当然、ながら「さくやはおたのしみでしたね」と翌朝言われてしまうような行為が待っているわけだが、妹がいるとそれは不可能だ。
 いくら童貞だとは言え、実の妹の前で初体験は勘弁願いたいし、それ以前に妨害が入るに決まっている。エロ本やAVじゃあるまいし、実妹込みの三人で『いたす』のは論外。
 妹が来る前にクリア、そのまま妹の来ない場所へ二人でランデブー。それが俺の描く青写真。
『それではEXTRA Stage101~110の試練は』
 もう休め、と言いたくなるような、だるそうな口調でアナウンスが告げる。さっきの妹が晒されていた試練を考えると多少は不安だが、贅沢は言っていられない。今は不安を口にするよりも、勢いでなんとかするべきだ。
『この部屋を突破してください』
 アナウンス、そして腹の底から響くような振動。
「は……?」
 次の瞬間に視界に入ったものに、ぽかんと口を開く。
 今までといきなり趣旨替えして少年マンガ的な内容に変わった試練が告げらたまではいい。
 ……じゃあ、それをまとめて行うとしたら、一体どんな内容になるだろう。まず考えられるのは、待機していた戦闘要員のみなさまが一斉に襲いかかってくるパターン。これでも十分苦しいが、全員が俺を狙ってくるにせよ、乱戦になるのであればなんとかなるかもしれないという希望がある。
 だが、そうでなかった場合がどうなるのか。その答えが、今俺の目の前にある。
 灰色の、がさついた肌……いや、壁がそこにあった。学名:Loxodonta Africa。一般的にアフリカゾウと呼ばれる動物が、俺のわずか五メートルほど前に立っているのだ。
「……ワシントン条約とはいったいなんだったのか」
『頑張ってくださいね。てへ』
 え、なにその語尾。字面だけだと可愛いかもしれないが、相変わらずだるそうな声で、棒読み気味の応援である。
「童貞なめんな」
 ほぼ強がりと化した言葉を呟く。それに応えるかのように、アフリカゾウが吠えた。

『EXTRA Stage200クリア! おめでとうございます!』
 一番最初に聞こえてきたアナウンスのお姉さんの声が聞こえてくる。全自動食器洗い機を抱えながらうんうんうなる執事五大老の一人と、モップモップとうなる執事四天王筆頭が、俺の視界内で倒れ伏していた。
 そう、俺はとうとう試練をクリアしたのだ。後は、目の前にある扉を開けば愛しの我が彼女が待っているはず。
 その先にあるのはもちろん、お楽しみである。
 ちなみに、アフリカゾウの部屋は「突破しろ」という言い方がミソで、部屋の奥にあったボタンを押したら出口の扉が開いた。まあ、気づいて押すまでに三回ほど全力全開ボディープレスを食らいかけて死ぬかと思ったのは確かだが。
 一番辛かった部分を回想しつつ鋼鉄製の扉を押すと、重そうな見かけとは裏腹に、扉は特に抵抗もなく開いた。そして。
「お兄ちゃん! 今ならまだ間に合うよ!」
 なんか部屋の中から聞こえた。がば、と抱きつこうとしてくる妹を回避する。どうやったのかは知らないが、いつの間にか俺を追い抜いて先にクリアしたらしい。が、振り切り方は後で考えるとして、とりあえず今は無視しよう。
「お疲れさま」
 豪奢なシャンデリアが天井からぶら下がっている、天蓋つきのベッドと白いテーブル、白いイスの置かれた広い部屋。その奥から、聞きなれた声のねぎらいの言葉がかかった。視線をベッドへとやると、思わず「おお」と歓声を上げたくなる格好のヒロインが待っていた。
 ベッドの上に腰掛けたヒロインは、ピンクのキャミソールから上下ピンクの下着を覗かせるという非常に扇情的ないでたちでいたのだ。もちろんそんな姿でいるということは肌の露出度も高いわけで、触れば程良い弾力のありそうな胸が、谷間を作って俺を誘っている。
 早い臨戦態勢は整っているということであり、敵は本能寺にありでもニイタカヤマノボレでもなんでも来いということなのだろう。
 俺の股間の縮退砲もすぐに爆発しそうです。
「騙されてる! 騙されてるよお兄ちゃん!」
 俺の周りをネズミ花火みたいにぐるぐる回る妹が何かを言うが、俺の童貞喪失の障害にはならないだろう。
「来て」
 誘うようなヒロインの視線に、艶めかしい声。
 はいはい、今すぐ行きますとも。
「ちょっとお兄ちゃん!」
「あ、今日は帰らないから戸締まりは頼んだぞ」
「あ、朝帰りなんて不潔だよ!?」
 ごくごく普通の頼みごとをしたのに、殺人鬼を非難するような口調でそう言われた。早々とヒロインをひん剥きたいところだが、別の部屋に移動するのが先決だろうか。
「あ、妹さん」
「なに!?」
 ヒロインに声をかけられ、今にもかみつきそうな表情で振り向く妹。やはりヒロインも妹が邪魔だと思っていて、今から退場をお願いするのだろう。
 手招きするヒロインに、警戒しながら近づく妹。
 ここは女同士の方が話が早いかもしれない。がらがらがしゃん。
「ん?」
 突然の金属音に、思考が中断させられた。気づくと目の前に、金属製の柵が降りていた。視線をベッドに戻すと、相変わらずにっこり微笑むヒロインと目を点にしてして俺を見ている妹の姿。俺と二人との間に、金属製の柵。
「え? なにこれどういうこと?」
「あなたを愛しています。しかし残念ながら、ご褒美は先着一名様です。また次の機会に愛し合いましょう」
 状況のつかめない俺に、少し残念そうにヒロインが笑う。
 ヒロインは確かに、俺がヒロインの元にたどり着くことができたら体を許すかもと言った。そして、乱入者がもしいてその乱入者が先に着いた場合はどうするかまでは説明をしていなかったから、その二つに矛盾はない。いや、そもそもそんなルールがあるんだったら説明しろとは思うのだが。
「ご安心を。仮にも彼氏であるあなた以外で処女を散らすような真似はしません。相手の処女はお約束できかねますけど」
 妹を縛り付けながら、わりと外道っぽいことを言うヒロイン。「変態! サイコパス!」という、我が妹のおまえが言うな的発言をかき消すように、ワイヤーが回転するような音。そして柵の向こうに緞帳がゆっくりと降りてくる。
 呆然とする俺、降りきった緞帳越しに聞こえる妹の罵声は、いつしか嬌声へと変わる。
 俺は性欲だけを残し、ただただその場に立ち尽くしていた。


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