世界はそれを逃避と呼ぶんだぜ
若者の課金離れ
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陽一

Author:陽一
返事がない。ただの中二病のようだ。
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MyBestFriend2 M38 「世界はそれを逃避と呼ぶんだぜ」で参加します。
タイトル「Black out」。オフセット112Pの新書版。500円です。
ジャンルはアクション。真と伊織がドンパチるお話です。
表紙絵は暫時さんにお願いしています。

サンプルテキスト。PDF形式にて注意。
続きはPDFが重すぎるという方のためのテキスト張り付けサンプル。レイアウト以外はどちらも内容変わらないです。
 菊地真は、オーディションの帰りに通りかかった公園で、何者かに襲われた。



プロローグ

 朝――
 あまり大きいとは言えない四階建ての茶色のビルの前で、一人の少女が立ち止まった。
 ショートカットに、中性的な凛々しい顔立ち。キュートというよりはボーイッシュな彼女の容姿は、道行く人を振り返らせる精悍さがあった。
 ビルを眩しげに見上げるその瞳は、強い志に満ちていた。
 ――少女の名は菊地真。
 目の前のビルは芸能プロダクション、765プロ。彼女はそこに所属するアイドルだった。
「今日も、頑張ろう」
 そう呟き、真はビルの中へと入っていった。

 始業時間になり、社長による朝礼が始まった。社員やアイドルがずらりと並び、前に立つ高木順一朗の話を聞く。
『日に日にアイドルへの暴力沙汰は増えてきている。皆、常に警戒しながら営業やレッスンに臨んでくれたまえ』
 彼の声がオフィスに響き渡る。
『それからこれは喜ばしいニュースだ。先日、三浦あずさ君が見事Aランクにあがった』
 三浦あずさと呼ばれた女性が、立ち上がって恥ずかしそうにぺこぺこと周囲におじぎをする。彼女は圧倒的な歌唱力で、勝ち残ってきたアイドルだった。
 真もあずさと話したことはあるが、柔らかな物腰と共に確かな〝強さ〟を持った女性だった。
 765プロには、他にもBランクの秋月律子、同じくBランクの如月千早と高ランクのアイドルがいる。
 真のアイドルランクはDだった。新人というわけではないが中堅にもなれていない、とても中途半端なランクである。
「……ボクも、頑張らないとな」
 強く、呟いた。

 真はそれから、一人でオーディション会場に向かった。プロデューサーは彼女についてこない。危険だからだ。
 電車で一時間ほど揺られたところに、そのテレビ局はあった。
 今日受けるオーディションはローカルの歌番組のものだが、かなりの視聴者がおり、合格できればぐっとファンを増やすことができるだろう。
 ――今日こそ、勝つんだ。
 真はぐっと拳を握りしめ、建物の中に入っていった。

 建物の中は静かだった。真と同じくオーディションを受けるアイドルが多数いるが、全体的に緊張感に包まれているのでひたすら空気が重い。
 受付を済ませ、真は控え室へと向かう。
 いついかなるときも油断はできない。真は神経を張り巡らせ、一歩一歩廊下を進んでいった。
 ――ふと。どこからか泣き声が聞こえてきた。同じように聞こえたのだろう、真の横を歩いていたアイドルたちがその声に反応する。
 その、あまりにも哀しそうな声を放っておくわけにはいかず、真はそちらへと警戒しながら歩いていった。
 泣き声は廊下の柱の陰からだった。そこにアイドルなのだろう、女の子が柱に寄りかかって座り込んでいた。
「……どうしたの?」
「足を、捻っちゃって……」
 真はいまだ泣き続ける彼女の前に屈み、その右足を見た。
〝捻った〟と言ったが、どう見ても彼女の右足は折れていた。ありえない方向にぽっきりと折れ曲がっている。
「待ってて、今スタッフさんを呼んでくるから――」
「だ、だめ」
 離れようとした真の服を、そのアイドルは掴んだ。
「わたし、失格に、なっちゃうから、」
 髪を振り乱し、流れる涙を拭おうともせず彼女は真にすがる。
「……その怪我じゃ、無理だよ」
 あまりにも彼女が可哀想で、だから逆に真は冷たく言い放った。
「でも、でも、わたし、オーディションに出られないと……」
 真はアイドルを振り払い、スタッフを呼ぶために今来た道を戻っていった。
 一体何が原因なのかは分からないが、滑って転んだわけではないだろう。露出していた腕は引き締まっていたし、運動神経も悪くなさそうだった。
 ……誰かにやられたのだ。他のアイドルか、それともまったくの第三者か分からないが。
 ぎゅっと真は唇を噛んだ。あの骨折が完治するまでどれくらいかかるのだろう。一ヶ月? 二ヶ月? 
 治ってもリハビリが必要だろう。彼女がダンスのステップを不自由なく踏めるまでに何ヶ月かかる? しかも、レッスンできない間、習っていた知識と技術は徐々に失われてゆくのだ。
 事実上、彼女はもう――
 他人事ながら、真は彼女の行く末が悔しくてたまらなかった。

 今の一幕が真の精神に影響を与えたのかどうかは分からないが――
 真はその日、不合格に終わった。

* * *

 ――こんな嫌な流れが出来上がったのは、いつだったっけ。
 真は帰りの電車に揺られながら、物思いにふけった。
 座席は既に帰宅ラッシュのサラリーマンや学生で埋まっているため、仕方なくドアに寄りかかる。窓の外を眺めると、街はオレンジ色に染まっていた。
 ――菊地真がデビューする数年前、芸能界は荒れていた。
 トップアイドルは巨万の富を築き上げられ、多大な名誉を得られる地位だ。多くの者がトップアイドルを目指し、その中にはどんな手段を使ってもいいと考える者たちがいた。
 他のアイドルに不正を指示したり、スキャンダルを捏造したり。
 負の流れは負の連鎖を産む。いつしか〝不正はして当たり前〟〝やったもの勝ち〟という風潮が芸能界を満たした。
 やがてトップアイドルを目指す〝手段〟はエスカレートし、いつしかアイドル自身に危害を加えるほどにまでなった。
〝負〟の流れは負の連鎖しか産まない。風潮は変遷する。
 アイドルにボディガードをつけることが当たり前になった。しかし、身を護るための手段は新たな闘争の火種にしかならなかった。
 ボディガードをつけたことで更に妨害工作に遠慮がなくなり、それがメディアに大々的に取り上げられるような大事件に発展したことがあった。警察からも頻繁に干渉されるようになってしまった。
 もともと、全員のアイドルにボディガードをつけられるわけもない。
 芸能界とアイドルは、大事にしないため――自らの世界を護るため、自分たちで身を護るしかなくなった。

 ……電車を降り、駅を出て、真は一人歩道を進んだ。気が進まないが、今日の戦果を報告するために765プロへ戻らなければならない。
 横を、小学生が笑いながら通り過ぎていった。楽しそうな彼らと対照的に、ますます真の表情は暗くなってゆく。
 今の風潮と成績を考えるたびに、気分が沈んでくる。まるで泥土の中でもがいているようだ。
 一体どうすればいいんだろう。何をすれば、道は開けるのだろう?
 ……ダメだ。今帰ったら、感情が爆発してしまいそうだ。
 真は寄り道しようと、事務所近くの公園へと足を踏み入れた。

 ――護身術を身につけたアイドルたちは、その護身術で他の弱いアイドルを攻撃するようになった。警察に目をつけられるようになってから規模は縮小したものの、より陰湿に、隠密になっていっただけだった。
 道ばたで襲われる。オーディション会場で隠れて襲われる。レッスン場で事故に見せかけて襲われる。
 一対一で。複数で。武器を用い罠を用い。正々堂々の欠片もなく。ただただ汚く、卑怯に。
 アイドルは自らを確実に護るため、護身に留まらない闘いの技術を身につけてゆくしかなくなった。
 文字通りの、弱肉強食の世界。
 それが現在の芸能界だった。

 そうして。
 真が公園の敷地内に入った瞬間、
 彼女は何者かに襲われた。

* * *

 目の前を閃光が走る。
「…………ッ!?」
 とっさに飛び退き、真はすれすれのところでそれを躱した。
 数瞬前まで真が立っていた場所に、小型のナイフが三本突き刺さる。
「誰っ!?」
 周囲に生い茂る木々に怒鳴るが、返事はない。
 滑り台とブランコしかない寂れた公園。あまり広くもないので、まだ太陽は出ているが子供の姿はない。
 しかし――何者かの強い〝気配〟を真は感じていた。
「…………」
 真は上着のポケットから戦闘用のグローブを取り出し、両手に装着した。黒いオープンフィンガーグローブで、手の甲の部分には金属が入っている。
 少しの間。静寂が場を包み込み、
 風がざぁと吹いた、その瞬間、
 真の視界の隅で再び閃光が煌めいた。風を伴って迫るナイフ。真へ向け、一直線に。
「すぅ、」
 息を吐きながら、真は瞬時に構えた。
 迫り来るナイフを捕捉……一、二、三本、着弾予定地はそれぞれ額、右腕、左胸。
 その位置さえ分かれば。
 ――できるできないではない。大切なのは、〝やれる〟と自分を信じることだ。
「はぁっ!」
 気合を入れ、踏み込み、真は腰まで引いた拳を振るう。
 それは瞬きの間もなかった。
 空気を切り裂いて迫るナイフは、空気を押し退けて疾走する拳に阻まれた。
 真の両手、その拳がナイフを叩き落としたのだ。ほぼ同じタイミングで、三本ともに。
 落ちたナイフの刃は、ひび割れていた。
「……ボクに奇襲は効かないよ。出てこい!」
 構えを解かず、真は公園全体に響き渡る声で言った。
 静まりかえった公園。先ほどから感じていた気配が消える。逃走したのか――と真が思った時だった。
『――――』
 背後からかすかな息づかい。
「!」
 確認に振り向く暇もない。真は前転でとにかくその〝誰か〟から逃れた。
 服の布が切り裂かれる感覚。あとコンマ一秒でも反応が遅れていたら、背中に大きな傷を負っていたところだった。
 前転で距離を空け、真は立ち上がって素早く体勢を整えた。
『――――!』
 真の後ろに立っている〝誰か〟。かなりの長身で、寡黙そうな雰囲気のショートカットの美人だった。その手には大振りのナイフが光っている。
 女性の動きもまた迅かった。
 初撃が失敗したにも関わらず、すぐさま距離が空いた真に追いすがる。
 三メートルを一歩で詰め、ナイフを薙ぎ払う……!
「ん……っ!」
 狙われたのは首、頸動脈だ。
 前転から立ち上がってすぐだったため、まだ体勢が整いきっていなかった。ゆえに真は安全策をとり、大きくバックステップで再び距離を離す。
 当然女性は真に距離を空けさせようとしない。ナイフの投擲が通用しないと分かった今、彼女は意地でもクロスレンジに持ち込もうとするだろう。
 案の定、ナイフを振った勢いのままに再度足を進めた。ナイフを逆手に持ち直し、体当たりするほどの勢いで振り切る――!
 今までの数合で既に真の間合いを掴まれたのだろう、彼女は半歩多く踏み込んだ。
 今度こそ躱す間もなく、ナイフは無慈悲に真を切り裂く。
 真は上半身を反らした。ナイフを避けるためではない、次の動作へ繋げるために。
 バックステップして重心が後ろに移っているため、このままでは突きは出せない。ゆえに真に防御の手段はなく、このままではナイフに斬り殺されるだけ――
 ――真は右足を蹴り上げた。
 このクロスレンジで出せる蹴りなど存在しない。蹴りは通常体の外側を回りこんで放たれるもの。
 しかし真の蹴りは体の内側から、ほぼ垂直に打ち出された。本来なら足の甲で、相手の頬を叩く技だ。
 下部から突如出現した蹴りは、真を切り裂くはずだったナイフの腹を叩き、女性の右手から吹き飛ばした。
「……!」
 女性の驚愕の息が漏れる。
「まだ、やるかい?」
 真は構えを解かないまま、静かに聞いた。
 距離は先ほど詰められたままのクロスレンジ。だが、ナイフのない女性と、そのまま突きを繰り出せばいい真。どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだろう。
「――――」
 彼女はゆっくりと後ずさる。四メートルほど距離を空けると、そのまま音もなく走り去っていった。
「…………ふぅ」
 しばらく残心してから、真は構えを解いた。
「物騒になったなぁ。事務所の前で襲われることはなかったんだけど……」
 真は一人ごち、頭をかいた。
 それから何となしに周囲を見渡して、
「……?」
 誰かのかすかな声が、耳に届いた気がした。か細い、今にも途切れそうな小さな声。
 誰か、まだいるのだろうか。
 真は警戒しながら、その声のほうへと歩んでいった。
 闘いの最中は気づかなかった。生い茂る木々に隠れて――

「……ぅ、ん……」

 少女が、地面に倒れ込んでいた。

* * *

 歳は十三、四ほどだろうか。腰まである長い髪に、強い意志を持った切れ長の目。高級そうなハイウエストワンピースに、頭には紺のリボン。全体的にまだあどけなさが残っているが、雰囲気に気品が漂っていた。
「ど、どうしよう……こんなところで……」
 真は慌てた。死んではいないようだが、だからといって安心できるはずもない。
 ひょっとしたら、先ほどの闘いに巻き込まれた一般人かもしれない。仮にそうだとしたら、周囲の確認を怠った真の責任だ。
 どうすればいい……?
 公園から早く離れるべきだろうか。さっきの〝誰か〟がまた来てしまうかもしれない。
 でも、だからといって少女を動かしていいものなのだろうか。頭を強く打っているかもしれない。動かすのは逆に危険かもしれない。
 ……そうだ。まずは怪我がないかどうか確認だ。動かすのはそれからでいい。
 真は少女の前に屈み、彼女の体を見回した。木々の辺りで倒れていたせいか、服に土がついている。
 真はふと、彼女の頭の近くの地面に、石が飛び出ていることに気づいた。まさかと思って少女の頭を見ると、コブができているようだった。
 頭を打ってしまったのか。とすると、ますます動かしていいものか分からなくなる。
 どうする――?
 そこまで考えて真はふと、救急車を呼べばいいという単純な事実に気づいた。餅は餅屋、怪我には医者。こんな単純なことに頭が回らないとは、相当慌てていたらしい。
 真はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、番号を押そうとしたそのとき、
「……う、ん……」
 少女が息を漏らした。
「だ、大丈夫!?」
 よかった。頭を打っていても当たり所は悪くなかったようだ。
 少女はそのまま、ゆっくりとまぶたを開けた。
「ここ、は……」
 消え入りそうなほど小さく、しかし澄んだ声。
「だ、大丈夫? 君は倒れてたんだ。ここは公園だよ」
「こう、えん」
 少女は地面に寝転がったまま、真の言葉を反復した。
「わたし、は……」
「……うん」
 真は救急車を呼ぶことも忘れ、ただ少女の唇の動きに注目した。
「イオリ」
 イオリ、という名前なのだろうか。
「あ、えっと、ボクは、菊地真」
 真は間抜けな返答をした。聞こえたのか聞こえなかったのか、少女は答えず、
「あとは……」
 しばらく間が空いた。
「……わか、らない」
「え?」

 彼女は呆然としていた。オレンジに燃えている空を見つめて、こう言った。


「ほかになにも、わからない」



 ――それが、菊地真と少女の出逢いだった。
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この記事に対するコメント

へぇ・・・いきなり燃えるじゃないの、そしてマリスが湧き出る世界だなぁ・・・
【2009/04/23 22:37】 URL | 墓地送り #- [ 編集]


これはまたなかなか中二ならぬ高二病展開ですな・・・

【2009/04/23 23:43】 URL | HOLL-PANCHI #TMk8PTho [ 編集]


なんといういつも通り!
【2009/04/24 01:29】 URL | 陽一 #- [ 編集]


さすが陽一さん!
こういうのが書けない自分が悔しい!
【2009/04/26 14:05】 URL | Takma(たくま) #- [ 編集]


書き続ければ慣れますよ!
【2009/04/27 02:00】 URL | 陽一 #- [ 編集]


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